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■「リーデル社を訪ねて」  By ソムリエール原田


 イタリアのベローナから北に車で約5時間、頂きに雪を抱えたアルプス山脈を越え、オーストリアのチロル地方に入りました。ここは、かのワイングラスで有名なリーデル社の本拠地です。 イタリアで訪れたワイナリー・オーナーの熱い熱い情熱もさることながら、今回は、ここリーデル社で体験したワインテイスティングがとても印象深かったので、そのお話を・・・。  リーデル社の歴史は古く、1756年ボヘミアで創業され、1956年現在のチロルにある工場を入手したのを機に、それまでの色付きの華やかなグラスではなく「形は機能を伴う」という理念のもと、装飾の全くないシンプルで機能的な脚付きグラスの制作が始まりました。  1960年、それぞれのワインやスピリッツの個性を引き出したグラス「ソムリエシリーズ」を開発したのは9代目のクラウス・ヨーゼフ・リーデル氏です。  そしてこの日、10代目で現在の社長ゲオルグ・リーデルさんが、私たちを出迎えてくれました。入口には日本の国旗が掲げられていて、これには感激!

手吹きグラスの工場で職人技を見学したあと、テイスティングコーナーへ。  普通、ワインテイスティングといえば「ヴィンテージは・・・セパージュは・・・」と始まりますが、ここではグラスの形状でワインの香り・味わい・余韻 が異なることを体験するテイスティングなのです。  目の前には4つのグラス---ソムリエシリーズの3種類と厚手の脚付きグラス---が並べられ、まず右側3つのグラスを使って白ワインのテイスティングです。用意されたオーストリアのソーヴィニヨン・ブラン品種が「ロワール」という名前の左のグラスに注がれました。 これはゲオルグさんがソーヴィニヨン・ブラン用の完璧なグラスを求めて世界中を駆け巡り、何百人ものテスターに関わってもらい、長い期間の調査の結果 開発された自信作のグラスです。  その完璧なグラスでワインを味わった後、真ん中のグラスに移しかえて、また味わいます。  これはリースリングのために作られたグラスで、大きさはほとんど同じですがボール の部分の形が異なります。 香り、味も確かに違う・・・様な気がするけど・・・ちょっと微妙。  さらにワインを右の口の部分が開いた厚手のグラスに移します。この違いは明らかで、まず香りがほとんど感じられないし、リーデル社のグラスの唇に当たる感触の心地よさに気付きました。見た目はかわいいグラスだけれど、これではワインがかわいそうです。


赤ワインのテイスティングは左側2つのグラスを使います。  オーストリアのカベルネ ・ソーヴィニヨン品種を、左の「ボルドー・グラン・クリュ」という名前のグラスで味わいます。ボールの部分がとても大きい(860cc)ので、グラスの中にたくさんのアロマを広げてくれます。そこで登場したのが、最初から気になっていた、カウンターの向こうに並ぶ蓋をした十数個の真っ黒なグラス。 実はこの中にワインの香りに含まれる、フルーツ、ジャム、ハーブ、香辛料、チョコレート、コーヒー豆、なめし皮などの本物が入っていたのです。ゲオルグさんは、赤ワインの入ったグラスをクルクル、クンクンと香りを確かめながら、9つの黒いグラスをチョイス。  人工の香りと違って、本物の香りはとてもわかりやすく、「確かに!確かに!」と感じつつ、そのワインを隣の小振りなグラスに移して味わうと、複雑だった 9つの香りは3種類の香りを残して消えてしまいました。「フーム、なるほど・・・」  ショールームで見学したズラリと並ぶワインの品種・産地別のグラスは、趣味の世界かと思えたけれど、このテイスティングで、グラスとワインの密接な関係を改めて実感させられました。  「グラスはワインのメッセージを伝える道具である」というポリシーを心に刻んだ、とても有意義な体験でした。

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