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■「バンフィー社・プラ社・ガイヤ社を訪ねて」


■第1話:トスカーナ州・モンタルチーノ      モンタルチーノに 秋が来た!? トスカーナ州・モンタルチーノの村に着いたのは9月2日の夕方でした。丁度、日曜日で、村の人々は午前の礼拝後、路地のベンチで延々おしゃべりをしています。カフェやエノテカ(イタリアの酒屋のこと)にも、そんな人たちが溢れ、ワイン片手にわいわいやっています。本当に、これらの光景からすると人口2千人の村とは思えないほど。  この村では、収入の95%がワインの生産によるものだそうです。「皆一体何をしゃべっているのか」と、通訳さんに訪ねると「明日あたりから秋が来る!」と話しているのだそう。 「明日から秋?立秋!??」 頭に「???」マークを浮かべつつもその日は(も)、ワインに酔いしれバタンキュー。  翌朝、あまりの寒さで目を覚まし、思わず温度計を見ました。昨夜まで20℃あった気温がなんと8℃・・・。村の人たちが語り合っていた通り、「秋」が来たようです。日本とはあまりに異なる秋の訪れでした。  その日訪問したワイナリー、カステロ・バンフィー社の醸造長ルディー・ブラッティー氏も「今日から秋デス。モンタルチーノの秋は朝晩は10℃、昼間は 32℃にもナルノデス。その寒暖の差の大きさこそ、極上ワインに必要な高貴な酸味を作り出してクレルノデス」とのこと。 なるほど、なるほど。 だからモンタルチーノの赤ワインは、長い余韻と深い酸味があるのだな・・・。 ルディー氏と面談の後、ブドウ畑とワイナリーを見学しましたが、そこには虫の声がしないどころか、蚊もトンボもいないのです。日夜の温度格差と乾燥・・・この土地が如何に過酷な気候かということを改めて痛感した次第です。 そんな大地で、モンタルチーノの人々は、もう千年もワイン作りを営み、またワインが溶け込んだ生活を送ってきたのです。 一面ブドウ畑が続く高台の向こうに、バンフィー城が見えたとき、その歴史と文化に思わず胸が熱くなりました。  今年のイタリアは、特に異常に暑かったそうで、「例年だと10月はじめから赤ワイン用のぶどうの収穫なのだが、今年は9月中旬からになるだろう」と醸造長。  ちょうど今頃、アノぶどう畑では、にぎやかな収穫の唄が聞こえていることでしょう。  <第1話おわり>

■第2話:ベネチア州・ベローナ     ソアーベ & ヴォルポリチェラ  水の都ベネチアから北へ約100キロの町、ベローナ。『ロミオとジュリエット』の舞台として有名ですが、白ワインではソアーベ、赤ではヴァルポリチェラなど、世界的に知られたワインの産地でもあります。  今回はその中で、ソアーベのクラシコタイプを作っているプラ社と、ヴォルポリチェラの最上級を作っているアレグリーニ社を訪問しました。  皆さんの中には、ソアーベやヴァルポリチェラと聞くと、水っぽいガブ飲みタイプを連想される方もいらっしゃるかもしれませんね。ですから私もこのタイプをわざわざお店のワインリストに載せたりはしませんでした。  しかし今回の訪問で、ノーマルタイプのものと、名前の後に「クラシコ=クラシックの意味」の表示があるものとの歴然としたちがいを改めて痛感し、是非とも皆さんにもそのことを理解いただきたいと思いました。  ノーマルタイプは、限りなく平地で水はけの悪い---ワイン用のぶどう栽培には適さない---土地も多く含まれています。ここのぶどうがワインになると、どれも明るい色調で、飲んでもあまりエキス分を感じない、悪く言うと水っぽいものになります。  一方、クラシコタイプは、必ず山や丘の斜面を利用した日当も良くドライな畑(写真右)で作られており、そのぶどうがワインになると、赤も白も色の濃いもの---白なら黄色がかったもの、赤なら瓶に入ると透けて見えないほどの濃厚な赤---になるのです。  プラ社とアレグリーニ社でワインを試飲したとき「これほど畑とワインの関係が明白なものだとは・・・!!」と、愕然とした次第です。  価格面でも、クラシコの上質ものですとノーマルの約2倍。ノーマル・ソアーベが1000円前後であるのに対し、プラ社のソアーベ・クラシコは、1600 円。バルポリチェラも、ノーマル1000円程度のものが、最上級のアレグリーニ社のものは1800円~3000円という価格になっています。  1960年代、アメリカを中心に大規模なワインブームが起こりました。ベローナでは、その需要に応える為、機械化とともに畑の拡張が図られ、畑の面積が一挙に10倍にもなったそうです。この時期に一大資産を築き、大企業へ発展したワイナリーの多くは、大体ガブ飲みタイプの軽いものを手がけています。  イタリア政府もそのことを認め、DOC法(イタリアのワイン法)のもと、クラシコの表示で区別するようになったという訳です。  プラ社もアルグリーニ社は、そうした長い時の流れをくぐりながらも、本物の味を見失わないこだわり職人集団だったのでしょう。  プラ社のワイナリーは、グラチーニさんとセルジオさん兄弟たった二人で経営、運営全てをこなしています。 「私たちや私たちの父、祖父は時代の風に乗れなかったのさ」と、一笑。気負いも見せず、頑固に本物の味を守っている彼らの姿に、私も身が引き締まる思いがしました。  帰国後、早速お店のワインリストにプラ社のソアーベ・クラシコ・スペリオーレ "モンテグランデ"と、アルグリーニ社の "ラ・グローラ" (バルポリチェラーの一級畑的扱いの畑名ワイン)をワインリストに追加。お客様からオーダーをいただくたびに「努力の結晶」を伝える伝道師のような気持ちになる今日この頃です。 <第2話おわり>


■第3話:ピエモンテ州 ガイヤ社  自然を引き出す努力の結晶、ガイヤ社のバルバレスコ    イタリア・ワイナリーの訪問も、いよいよ最後になりました。  今回は最終回にふさわしい、アンジェロ・ガイヤ氏(61才)のガイヤ社。一番安いものでも7000円。畑名モノですと、30,000円を超すプレミアがつくなど、今や世界中から注目されているカリスマ醸造家のワイナリーです。  ガイヤ社は、イタリアの最北部、ピエモンテ州はバルバレスコ村にありました。訪れたワイナリーは、電動式の大きな鉄扉に閉ざされ、閉鎖的な印象です。そんな扉が開くと、軍人のようにぴーんと背筋がのびて鋭い目つきのガイヤ氏が、我々を迎えてくれました。  ワイナリーを案内しながら、氏が語ります。  「私は人生の全てをワイン造りにか賭けてきました。美味しいワインのためなら、あらゆる努力をしました。でも、私たち人間がぶどうに働きかけて出来ることは、ワインの味わいの中のほんの20%にも満たないのです・・・(中略)・・自然の姿を変える努力ではなく、自然を引き出す努力なのです。」  んー。なにやら難しい。  ワイナリーの見学後は、ワインのテイスティングです。 あまりにも高価なので、私もガイヤ社のワインはあまり多くは飲んでいません。用意された数種のワインに興味津々で臨みます。  まず、一つ目のグラスを・・・。  葡萄本来の甘みと果実味がはじけていました。「ん!おいしい!!」  続いて二つ目のグラスを・・・。  ベルベットのような、しっとりしたなめらかさもありました。長ーい余韻、目を閉じると、トリュフ、コショー、木の皮などの風味が次々に頭に浮かんできます。ほんの一杯のワインが、私のような酒飲みに、これほどまでの満足感を与えてくれるとは(!)。  「私のワインは、特別な科学的技法もないし、強い樽香をつけたりもしていない。むしろ、その葡萄畑の味わいを最大限引き出せる手伝いをしているだけなのです」と、ガイヤ氏。  近年新しい樽で強い香り漬けをしたり、回転タンクで、よりしっかり色出ししたりすることが多い中で、彼はあえて醸造所で奮闘するのではなく、葡萄畑で戦う姿に「自然を引き出す努力」の意味を実感しました。 そんな彼の姿勢は、ワイナリーそのものにも表れているようです。彼の醸造所は大型であるにも関わらず、その外観は、鉄扉を除いて普通の農家にしか見えません。  そのことを氏に尋ねると「そうです。ワイナリーもその土地、街、村の雰囲気に溶け込まなければいけないと思っています。この土地があって、私たちの生活が成り立つのですから。このワイナリーも、地上は2階で、地下に3階あるのです。」  「・・・ただ最近は、私たちの作業所にアポイントもなく、ドイツ人観光客が訪れてくるので邪魔されないように扉(電動の鉄扉)をつけたんですよ。」と、ちょっと舌を出されました。  ワインと早口のイタリア語のガイヤ氏のお話で、緊張ムードもいつのまにか和み、気が付けば夜中の12時になっていました。  ワインの話になると、ひたすら熱く語る(早口イタリア語ですと「しゃべりまくる」といった方が正しいかも)氏のバイタリティーに、ただただ圧倒されながらの夕べでした。  アンジェロ・ガイヤ氏からいただいた、バルバレスコ1998年もの。長期熟成型のこのワインが本当に美味しい飲み頃を迎えるのは2010年頃です。このボトルを開栓した時には、きっと氏の情熱が香ってくることでしょう。  ガイヤ氏の努力をつづった『バルバレスコよ永遠に』(ヴィノテーク社出版)という本がありますが、ワインを愛する者として、私も「今日のこの気持ちを永遠に!」と誓った次第です。 <第3話おわり>

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